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2015年03月08日

忘れないことを再確認する

こんにちは。社会科学書担当の鈴成こと成田すずです。

と、いつものようにキーボードを打ち始めて気づいたことがあります。
左手の薬指が痛い。「s」のキーと接触する所がものすごく痛い!
というのも先週末、スライサーで胡瓜を切っていて…(…これ以上詳しく書くのは止めます)。
あえて笑いながら”がむしゃら母ちゃんの日常”とでも言いましょうか。
一度座ると動けなくなるので、仕事から帰ると玄関からキッチンに直行し、そのまま食事の支度に突入したりするわけなのですが、勢い余って結構な深手を負う羽目になってしまいました。
子どもに「こりゃしばらくおにぎり作れんわ。ごめん」と言ったら残念がってくれていました。

なぜこんな日常の小話から始める気になってしまったかというと、いま何度か繰り返し読んでいる本が少々影響しています。
想像ラジオ(河出文庫い-18-4)
いとうせいこう/河出書房新社

東日本大震災から2年の2013年3月に発表され芥川賞候補にもなった本作が、今年文庫化されました。
雪の降る深夜、真っ暗な杉の木のてっぺんに引っかかっている男が、DJアークとして軽快にしゃべりだすラジオ番組から物語は始まります。
やがてリスナーの参加が増えるにつれ、いろいろなところから「声」が寄せられ・・・想像ラジオのリスナーは誰なのか。DJアークはなぜ、そこでしゃべり続けているのか。
文芸作品の紹介文は難しいですね。 読んでいただきたいので、これくらいにしておきます。

あの日から「被災地」と呼ばれるようになってしまった場所は、4年経ってもまだ被災地のままです。
でもそれを忘れようとして、ただ先へ先へと突っ走る時間と世の中に、私たちは引っ張られているのかもしれません。
いまいちど、忘れないことを再確認しておきたいと思います。
地震・津波・原発事故、こんな理不尽な形で突然失われたものは、慌てて料理をして指を切ったり、親子喧嘩をしたりする、今みたいな日常だったのだと思うと、悲しいような、悔しいような、言いようのない気持ちになります。

改めて社会科学書からごく一部ですが、以下の本をご紹介させていただきます。
忘れないことを再確認する
あのとき、大川小学校で何が起きたのか
池上正樹・加藤順子/青志社(2012年11月刊)

わが子が学校にいるということは、誰もが安心できることのはずでした。
しかし、この小学校では津波の被害で108人中74人の児童が死亡・行方不明になってしまいました。
助かったはずの命が、なぜこんなことになってしまったのか。そして、それまでの日常を永遠に失ってしまったご遺族の語る言葉の一つ一つが重く刻まれています。
遺体を引き取った親御さんの証言から、子どもたちの最期の恐怖が声となって聞こえてくるような気がします。

忘れないことを再確認する
東日本大震災 被災と復興と
岩手県気仙地域からの報告
木下繁喜/はる書房(2015年3月刊)

本当に現地の生の声、実際の状況が伝わってくる本です。
行政が行う復興事業の現状や、今も仮設住宅で暮らす避難者の生活。あまり触れられることのなかった障害者の仮設生活にも目が向けられるなど、より現実的な内容と、より実践的な問題提起がいっぱいです。
行政や法律と、住民の実生活に齟齬が生じてしまうのは災害発生地域に限ったことではありませんが、非常時だからこそますます弱者の声は届きにくくなってしまうのかもしれません。
社会生活の当事者として考えさせられる一冊です。

忘れないことを再確認する
フクシマ漂流
菊池和子(写真)・藤島昌治(詩)/遊行社(2015年3月刊)

この写真詩集は、現在です。
荒れ果てた大熊町の街角、草しかない浪江町の風景、なんにもない南相馬市の道…
福島のいま現在、何も復興していない景色と、果てしない除染作業と、今もふるさとを追われたままの人々。
こういう写真や言葉はもはや新聞にさえ載せられなくなってしまったけれど、本当はそれが変なのであって、こんな状態が何年も続いているというのは異常なんだ、慣れちゃいけないんだと思う。



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